太宰府市の楠田大蔵市長とYATAI代表・織井敬太郎が「ウェルネスキャリア」と地域経済の未来について語った対談記事です。
タイトル: 歴史の街・太宰府から、日本の「働き方」が変わる。YATAIが描く『ウェルネスキャリア』 ― YATAI代表 織井敬太郎 × 楠田大蔵 太宰府市長
【プロローグ】 なぜ、太宰府から始めるのか?
福岡という街は、不思議な力を持っています。アジアへの玄関口としての先進性と、そこに暮らす人々の温かみが心地よく共存する街です。YATAI代表・織井敬太郎も、その引力に魅せられた一人。彼はこれまで、数多くの地域企業と関わる中で、共通する一つの「もったいなさ」を感じ続けていました。
「福岡には、全国、いや世界に誇れる素晴らしい技術や想いを持った企業が、星の数ほど眠っているんです。でも、その多くが"伝え方"を知らない。そして、その価値を未来に繋いでいくための"新しい血"、つまり情熱を持った人材に出会えていない。結果、ポテンシャルを最大限に発揮できないまま、時間が過ぎていく…この状況を、なんとか変えられないか」
その想いが結晶したのが、単なる仕事の紹介ではなく、個人の「生き方」と企業の「在り方」を共鳴させる人材マッチングサービス『YATAI』です。目指すのは、心身ともに満たされ、自分らしく輝ける働き方「ウェルネスキャリア」の実現。
その狼煙を上げる最初の地に、なぜ歴史の街・太宰府を選んだのか。ローンチという記念すべきタイミングで、なぜ太宰府市の楠田大蔵市長との対談を熱望したのでしょうか。
これは、未来への渇望を抱く一人の経営者と、愛すべき街の未来を思い、悩み、走り続けた市長の魂の対話。そして、この記事を読む「あなた」自身の働き方を、もう一度見つめ直すための物語です。
Chapter 1:歴史という誇りと、未来への渇望。楠田市長が語る、愛すべき街のジレンマ
東京経済記者: 本日はお忙しい中お時間いただき、本当にありがとうございます。市長とこうしてお話できることを光栄に思います。早速ですが、太宰府は誰もが知る観光地であり、そのブランド力は絶大です。しかし、その光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるのが常かと思います。市長が日々、この街のリーダーとして肌で感じてこられた、太宰府が抱えるリアルな「課題」について、まずはお聞かせいただけますでしょうか。
楠田市長: ええ、ありがとうございます。光と影、まさにその通りなんです。私が最も根深い課題だと感じてきたのは、自治体運営における「財政構造」そのものでした。どうすれば地域経済を潤し、持続可能な税収を確保し、市民サービスを向上させていけるのか。それは、単に観光客を増やせば解決するような、単純な問題ではありませんでした。
織井代表: 構造的な問題、ということですね。私も多くの地方都市を見てきましたが、太宰府のケースは少し特殊なように感じます。
楠田市長: その通りです。まず、この街のアイデンティティでもある「史跡」の存在。市の面積の実に16%が国の史跡地に指定されています。これは文化財を守る上では絶対的な誇りですが、行政運営の観点から見ると、未来永劫、新しい産業のために開発ができない土地だということです。むしろ市が私有地を公有化し、保存しなくてはならない。つまり、利益を生むどころか、維持コストが恒常的に発生し続けるのです。
織井代表: なるほど…。市のDNAとも言える部分が、経済的な発展の足枷にもなっている、と。
楠田市長: ええ。加えて、太宰府天満宮をはじめとする宗教法人や、多くの学校法人が市のブランドを強固に形作ってくれています。しかし、これも税制上、固定資産税などが非課税となるため、市の税収として市民サービスに直接還元されにくい。九州国立博物館ですら国の施設ですから、極端な話、年間1000万人近い方が訪れてくださっても、その熱気が市民の暮らしの豊かさに直結しているかと言われれば、首を縦に振れない現実がある。これが、私が7年半、市長として向き合い続けた最大のジレンマです。
織井代表: そのジレンマは、街の風景にも表れているように感じます。太宰府天満宮の参道は、週末にもなれば前に進むのも難しいほど賑わっている。しかし、一歩路地に入ったり、夕刻になったりすると、急に静寂が訪れる。滞在時間が短く、宿泊にも繋がりにくい、いわゆる「通過型観光」の典型ですね。
楠田市長: まさに。「昼に来て、太宰府天満宮だけ見て、名物の梅ヶ枝餅を味わったら、すぐ次の目的地へ」。この観光モデルがあまりにも強力に定着しすぎています。夜の楽しみ、ナイトタイムエコノミーを活性化させようと市が音頭を取っても、市内に宿泊施設そのものが少なければ、絵に描いた餅になってしまう。ホテルの事業者も当然ビジネスですから、「夜に過ごす魅力がなければ宿泊客は来ない」という冷静な投資判断をする。この循環を断ち切るには、行政だけの力では限界がありました。
織井代表: そのもどかしさは、民間の一事業者としても痛いほど感じてきました。僕も参道で夜市のようなイベントを企画した際に、個社でできることの限界を痛感しましたから。市が「頑張ってほしい」と応援してくださる熱意はすごく伝わるんです。でも、その想いを推進力に変えるための、街全体を巻き込んだ「総合力」…そこにもう一つ、何か新しい仕組みが必要なのではないか、と。
楠田市長: おっしゃる通りです。そしてもう一つ、政治家として難しさを感じたのは、市民意識の多様性です。特に観光地から離れたエリアにお住まいの方々からすれば、観光イベントへの投資よりも、日々の暮らしに直結する子育て支援や高齢者福祉の充実を望む声が大きいのも当然のこと。観光エリアで生まれた利益を、どう市民全体の幸福実感に繋げていくのか。その道筋を、私がもっと強く、もっと具体的に示しきれなかったという反省は、正直にありますね。
Chapter 2:"条件"のマッチングから、"生き方"のマッチングへ。YATAIが起こす『ウェルネスキャリア革命』
東京経済記者: 今お聞きした課題は、太宰府市だけの話ではなく、多くの地方都市が抱える問題だと思います。その打ち手として「企業誘致」がよく挙げられますが、その点についてはいかがでしたか?
楠田市長: もちろん、様々な手を尽くしてきました。しかし、大規模な工場などは史跡地の問題でやはり難しい。そうなると、IT企業のようなオフィスと人材がいれば成り立つ「知識集約型」の企業を育てる、あるいは誘致する方が現実的です。市としても創業支援塾などを長年行ってきましたが、残念ながら、わざわざ太宰府に本社機能を置いてもらうほどの強い引力を生み出せていないのが現状でした。交通の便を考えれば、やはり巨大な福岡市がすぐ隣にありますから。
織井代表: そこなんです。僕は、その引力の正体をずっと考えてきました。企業が「あえて太宰府に拠点を置く理由」、あるいは「この街で事業を続けたいと心から願う理由」。それは、補助金のような一時的なものではなく、もっと本質的な部分にあるはずです。僕はその答えが、「そこで働く一人ひとりの、日々の充実感」にあると確信しています。これこそが、僕たちが『YATAI』で社会に問いかけたい「ウェルネスキャリア」という新しい働き方の概念なんです。
楠田市長: 「ウェルネスキャリア」。先ほども少し伺いましたが、非常に興味深い。もう少し詳しく、その思想を聞かせていただけますか。
織井代表: はい。従来の転職は、給与や役職、会社の規模といった「条件」のマッチングが主でした。しかし、それだけで人は本当に幸せになれるのでしょうか?僕たちは、そうは思いません。「YATAI」が目指すのは、その人自身の価値観や大切にしたいライフスタイル、つまり「生き方」と、企業の理念や風土、つまり「在り方」を共鳴させることです。その結果として、心身ともに健康(ウェルネス)で、自分らしく働けている状態。それが「ウェルネスキャリア」です。
楠田市長: 「生き方」と「在り方」のマッチング。なるほど。
織井代表: ええ。そして、そのウェルネスを実現する上で、働く「環境」は決定的に重要です。太宰府には、都心にはない圧倒的な価値があります。市街地から少し車を走らせれば、宝満山の豊かな自然が広がっている。日常の中に、1300年の歴史や文化が溶け込んでいる。これは、お金では決して買えない資産です。 『YATAI』が目指すのは、単に求人情報を並べるだけのプラットフォームではありません。AI技術で個人の価値観と企業の風土を高い精度で結びつけると同時に、こうした「その街で働くことの、目に見えない付加価値」までを丁寧に言語化し、求職者に届ける。いわば、「働く」を軸にした、新しい形のシティプロモーションであり、コミュニティデザインなんです。
楠田市長: それは面白い。行政が発信する「住みやすい街ですよ」というメッセージよりも、よほど説得力があるかもしれない。実際にそこで働く人のリアルな声を通じて、街の魅力が再発見される。確かに太宰府には大学が5つあり、「学問のまち」としてのポテンシャルは高い。しかし近年は、多くの学生がアルバイト先の多い福岡市内に住み、ただ大学に"通うだけ"になっている。街との接点が希薄なんです。YATAIさんのような仕組みが、彼ら若者と、この街に根ざす面白い企業の間に、これまでなかった「縁」を結ぶきっかけになる。そんな可能性を感じますね。
Chapter 3:共鳴する未来図。太宰府の「もったいない」は、日本の「伸びしろ」だ
織井代表: 新しい企業を外から誘致することももちろん重要ですが、僕はそれ以上に「今、この街に既に根ざしている企業のポテンシャルを、内側から解放する」ことこそ、最も確実で、街の未来そのものになる道だと信じています。この5年間、太宰府の歴史ある企業さんと深く関わらせていただく中で、本当に素晴らしい技術や製品、そして何よりも街への海より深い愛情がある一方で、それを次のステージへと引き上げるための「きっかけ」を掴みきれていない、あの、何とも言えない「もったいなさ」を何度も目の当たりにしてきました。
楠田市長: その「もったいなさ」の正体は、具体的に何だとお考えですか?
織井代表: それは、「出会いの欠如」です。例えば、長年地域に貢献されてきた素晴らしい経営者の先輩方から、こんな切実な悩みを直接伺うことがあります。「跡継ぎはいるが、新しい事業のアイデアがない」「DXの波に乗りたいが、誰に相談すればいいか分からない」「何より、それを実行できる、情熱とスキルを兼ね備えた若い人材がいない」と。
楠田市長: …耳が痛い話です。率直に言って、行政がそこまで一社一社のリアルな経営課題に寄り添い、具体的な解決策を提示できていたかと言われれば、決して十分ではなかった。それは、私たちの大きな反省点です。役所の職員はどうしても経営の実務経験者が少なく、企業の本当の痛みが分かりきらない。その壁を、なかなか越えられませんでした。
織井代表: そして、僕が『YATAI』という事業を通じて、福岡全体で最も大きな価値を生み出せると確信しているのが、まさにその点なんです。太宰府には、現状に甘んじることなく、未来を見据えて常に挑戦を続ける素晴らしい経営者が、実はたくさんいらっしゃいます。でも、悲しいことに、そうした熱意ある挑戦者たちが、業種や世代の壁を越えて繋がる機会が、驚くほど少ない。点のままになっていて、線や面に発展していかないんです。
楠田市長: そこに、YATAIが介在すると。
織井代表: はい。私達の役割は、単なる人材紹介屋ではありません。人と企業、そして企業と企業を繋ぎ、化学反応を誘発する「触媒」です。 想像してみてください。私達がハブとなり、先ほどのような熱意ある経営者たちが集う場を創る。そこで「伝統の味を、新しい形で世界に届けたい」と語る老舗の菓子店と、「うちの冷凍技術ならそれが可能だ」と語る食品加工会社が出会う。そこに、『YATAI』を通じて「地域に貢献できる面白い仕事で、自分のマーケティングスキルを試したい」と願う、東京帰りの優秀な若者がジョインしたら? きっと、今までにない革新的なビジネスが生まれるはずです。 企業が成長すれば、新しい雇用が生まれる。魅力的な雇用が生まれれば、街に人が集まり、活気が戻る。この最高の循環を、福岡の至る所で生み出していくことこそ、『YATAI』というサービスに僕が託した使命なんです。
楠田市長: …素晴らしい。まさにおっしゃる通りだ。市がもっと面白いマッチングを、化学反応を、仕掛けるべきだった。…私自身、政治家としてやれることの限界も感じ、今回で退任を決めましたが、織井さんの話を伺っていると、いや、まだまだこの街には無限の可能性があると、心からワクワクさせられます。
織井代表: 僕がここまで情熱を傾けられるのも、この数年間、楠田市長や市が様々なチャンスを与えてくださったからこそです。その中で生まれた地域の企業や個人の方々とのご縁が、僕の血肉になっています。その中で確信したのは、どんなに素晴らしい想いも、たった一人では形にならないということです。みんな、共に未来を目指す仲間と、その中心に立つ「旗」を求めているんです。「YATAI」を、単なる採用サービスではなく、福岡の未来を本気で考える企業と人が集う、一つの大きなコミュニティの「旗」にしたい。心からそう思っています。
楠田市長: それは、私がやりたくてもできなかったことかもしれません。人が来る、名前がある、文化がある。太宰府にチャンスは間違いなくあります。そのポテンシャルをどう引き出すか。私にはできなかった新しい街のシステムを、ぜひ織井さんのような新しい世代の方が、その情熱で生み出していってほしい。私もこれからは一市民として、その旗の下に集う一人として、心から応援しています。
織井代表: 本当に、心強いお言葉です。ありがとうございます。そのために、まずは『YATAI』というサービスを知っていただき、信頼を築くことが第一歩です。今後はPodcastなどのオウンドメディアも本格的に立ち上げ、福岡に眠っている魅力的な企業のストーリーや、そこで働く人々の生の声、つまり「給与や福利厚生だけでは決して分からない、その会社で働く本当の価値」を発信していきたいと考えています。求職者の方々が、求人票のスペック情報だけでは決して出会えなかったであろう「運命の一社」に出会える場所にしたいんです。その際は、またぜひ、記念すべき第一回のゲストとして、未来への想いをお聞かせください!
楠田市長: ははは、もちろんです。その旗が、この街の未来を、そして日本の「働き方」を、明るく照らし出す日を楽しみにしています。
【エピローグ】 対談を終えて。一本の旗が、やがて地域のうねりになる
公式な対談の時間は、とうに過ぎていた。しかし、二人の言葉は尽きない。織井氏が語る未来図に、楠田氏が市長としてではなく、一人の人間として深く頷く。その光景は、世代や立場を超え、一つの「想い」が共鳴した瞬間だった。
変革は、いつだって一人の熱狂から始まる。 「YATAI」という一本の旗。それはまだ、立てられたばかりの小さな旗かもしれない。 しかし、その旗の下に「我こそは」と集う企業や人々が増えるとき、それはやがて地域を動かす大きな「うねり」に変わっていくのだろう。
もし、あなたが今の働き方に少しでも疑問を感じているなら。 もし、あなたが自らの力を、もっと誰かのために、地域のために使いたいと願うなら。
一度、「YATAI」の門を叩いてみてほしい。 そこには、あなたがまだ知らない、新しいキャリア、新しい生き方、そして、新しい未来が待っているかもしれないのだから。
プロフィール
楠田 大蔵(くすだ だいぞう)
[楠田市長の経歴やプロフィールを記載]
織井 敬太郎(おりい けいたろう)
株式会社コーシェリジャパン代表取締役CEO
2016年に慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社電通に入社。人事局にて採用・育成・組織開発に従事。退職後、株式会社Hostyの第二創業に参画し、CHROとして1人→100人の事業拡大を牽引。2020年に拠点を福岡県太宰府市に移し、同年10月にウェルネスブランド「KOSelig JAPAN」をリリース。
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